あとがき


 郵政省で数年来続いている機構改革は、電波研の通信総研への改称、電気通信フロンティア計画の開始から関西支所設立へと波及し、音声グループはその波を正面からかぶることになりました。音声グループがごっそり関西へ移動することになり、グループの初期のメンバーが退官期を迎えるようになった今の時機を逃したら、音声グループの軌跡をまとめることは困難になるのでは、という危機感が、最後の音声研究室員である私たちの間に起こりました。そこで、当研究所が毎年8月1日に催している一般公開での配布を目標にして、本冊子の発行を計画しました。
 ところが、いざ作業を始めてみると、数多くの困難に直面しました。例えば、資料として、音声グループによる発表論文のリストを作成しとうとしたのですが、あまりの量の多さに頓挫してしましました。せめて査読のある学会誌に掲載されたフルペーパーだけでもリストアップしようと考えたのですが、それすら一朝一夕にはできないことがわかりました。はからずも音声グループの学会活動の活発さを身にしみて感じた次第です。そこで今回の「軌跡」は、OBからの回想録を中心としてまとめました。今秋の知覚機構研究室の関西移転までには、発表論文リスト、研修生リスト、写真資料等を揃えて、オフセット印刷による「軌跡・完全版」を発行する予定です。それまでしばらくお待ち下さい。
 ところで、一研究グループの軌跡を小冊子の形にまとめるのは、大学では当り前のことですが、通信総研ではあまり例のないことと思われます。この例のないことを実行に移したのは、音声グループが、その研究内容の所内における特異さのために、大学の講座制研究室のように1つの閉じた世界を作り、多数の学生を研修生として抱え、所内よりも所外での活動を活発にしてきたことと無関係ではありません。基礎研究重視の方針は、13号答申以来、国立研究機関の合言葉のようになっていますが、従来のような行政機関的な色彩の濃い研究所のままで基礎研究のポテンシャルを上げることは到底不可能であり、これからの国立研究機関は、基礎研究機関の先輩である大学を見習って、その良い制度をどんどん導入していかなければなりません。その意味で、通信総研における「大学」的存在であった音声グループの伝統は、電気通信フロンティアを担う関西支所の伝統、さらには通信総研全体の伝統にすべきと考えられます。
 本冊子は、単なる音声グループの軌跡の記録であるだけでなく、研究室の自主、自治、独立を掲げ、21世紀を目指した基礎研究グループへ飛躍する決意を所内外に示すものでもあります。
 最後に、本冊子は、多くの方々のご協力によって発刊にこぎつけたことを付記致します。特に原稿をお寄せ下さった諸先輩、および資料を提供下さった方々に感謝の意を表します。そして、今秋に発行を予定している「軌跡・完全版」の編集のために、これからもご協力をお願い致します。
1989.8.1

「軌跡」編集担当  滝澤 修


「軌跡」(一般公開配布用)
1989年8月1日発行

郵政省通信総合研究所
関西支所知覚機構研究室
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