遅れてきた中年

野田 秀樹

音声グループ在籍:1989.4.1〜
現職:当所知覚機構研究室 主任研究官

 今年の4月に、警察庁科学警察研究所から音声研究室にとらばーゆしてきた。5月末に音声研究室は知覚機構研究室へと改組されて発展的に消滅したため、私は音声研究室に配属された最後の人間となった。
 昨年の夏、中津井通信技術部長から通信総合研究所に移る気があるかどうかの問い合わせを頂いた。科警研では音声鑑定(話者識別)等を行い、裏街道ではあるが、それなりに世の中の役に立っているという自己満足はあったが、研究面での充実感はイマイチであった。中津井さんも、この辺りの事情を承知のうえで私に声をかけてくれたのだと思う。従って、私は殆ど即答に近い形で、宜しくお願いしますと返事した。10年間科警研で超ぬるま湯に(研究面で)浸かっていたので、まともな研究所でやって行けるかどうかの不安はあったが、この機会を逃すときっと後悔すると思って決心した。
 その数日後、鈴木前所長、畚野前企画調査部長にお会いし、私を頼りない奴だと思われたかも知れないが、拒否されることはなくてホッとした。後は事務的に事が運ばれるものと思っていたが、科警研側で、予想外の抵抗にあった。一時は、科警研に辞表を出す事態も覚悟したが、結局は、円満に出向という形で通総研に移ることができた。私は5年前、中津井さんの紹介でカナダに留学した。これまで私を含めて科警研からカナダに3人留学しているが、これで3人とも科警研を辞めてしまったことになる。今後、科警研ではカナダ留学は御法度になるやもしれない。
 通総研に入所し、その研究環境の良さ、特に研究室の人的環境の良さに大変満足している。今までが悪すぎたせいもあるが、これは偽らざる気持ちである。緑の多い窓外の眺めも、女子学生の多い隣の学芸大の学食での昼食も大変良い。
 客観的に見て、中年のちゅうぶるの人間が、数多くの優れた成果をあげてきた研究室の末席をけがすことになった。私の研究キャリアは、同年令標準より10年位遅れていると考えられるが、そうは思わないようにしている。目だつ白髪は強度の若白髪と見なし、図々しくも、自分は実年齢よりも10才若いと考えるようにしている。今後、自分なりに努力するつもりですので皆さん宜しくお願いします。

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