計算機シミュレーションによる音声符号化の実験

猿渡 岱爾

音声グループ在籍:1975.7.25〜1976.3.31
現職:当所通信系研究室長

 電波研究所に入る前に、音声のディジタル化がPCM 24チャンネル方式としてやっと実用化されたばかりの頃、次のステップ超高速PCM用としての10MHz標本化の標本化回路の研究をしていた関係で、当時の通信方式研究室に配属され、RADA方式の音声符号化の仕様書作成にたずさわったのが音声に関わった最初である。
 RADA方式の音声符号化に要求される条件は、ポーズの間のパルス発生がなく、音声がある間ではパルス列が少ないことであった。このため、3値デルタ変調器を試作し各種の特性の測定を始めた。しかし、当時の技術では、RADA方式が陸上移動通信において従来のFMに比べて品質や周波数利用効率メリットを発揮できずに、本方式の研究が中断した。
 有線伝送では、光ファイバーの台頭によって、かならずしも音声符号化の低ビットレート化は必要ではないように考えられた。しかし、将来の移動通信のディジタル化や衛星通信のディジタル化では、周波数有効利用の面から、低ビットレートの音声符号化の必要性は依然としてあった。新たな低ビットレート音声符号化の開発に先だって、それまでに提案されていた多数の低ビットレート音声符号化法の比較及び問題点等を明らかにするために、計算機シミュレーションによる実験を行った。
 当時、当所にはAD/DA変換システムが整備されていたので、シミュレーションによって処理した音声標本の再生に利用していたが、オペレーションが複雑であり、計算機とはオフラインとなっていたので、リアルタイムの処理が困難であった。また、MTを介していたので多くの不便さがあった。
 そのような時期に、音声研究室にミニコンピュータのPDP11/45が導入され、OSにDOSが採用されていたので、インターラクティブなオペレーションとDAのリアルタイム化が可能であったので、通信方式に籍を置いていたが、音声研究室に四六時中出入りするようになった。これまでにない使い勝手の良さに感心しながら長時間の演算を要するパラメータ符号化のシミュレーションに精を出した。
 このような時期に、当所のビッグプロジェクトとしてのCS・BS衛星計画が本格化した中で、音声研究室に配属された。在籍するようになってからは、衛星計画の推進の仕事量が増えて、音声符号化の実験は全くストップしてしまった。約9カ月の音声研究室在籍であったが、音声研究室で得た経験の一部はデルタ変調を用いた小容量DSI方式として衛星計画に反映することができたことは幸いであった。
 現在、陸上移動通信に携わっているが、周波数有効利用の面から、より低ビットレートの音声符号化の開発が要請されている。今後のこの分野の発展を期待したい。

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